
「ペットボトルのラベルって、なんでわざわざ剥がさなきゃいけないの?」
「生ごみの水切りって、やらなくても燃えるんじゃない?」
――そんな小さな“ごみ疑問”、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
実はこの“ひと手間”には、ごみ処理の仕組みやごみ分別の法律的な背景、そして現場の課題が隠されています。怠ればリサイクルの機会が失われるだけでなく、処理コストの増大や環境負荷の上昇にもつながります。
本コラムでは、「ごみ処理」「ごみ分別」をテーマに、制度や社会の動き、そして現場での実情を幅広く紹介していきます。私たち自身が日々の仕事の中で学んでいることを、読んでくださる方の小さな気づきや理解につなげられたら――そんな思いで発信していきます。
今回は「なぜ分別が必要なのか?」を、社会背景と法律、そして現場のリアルな視点から見つめていきます。
環境省のデータによると、日本で1年間に排出される一般廃棄物は2023年度で約4,000万トン。東京ドームに換算するとおよそ100杯分にもなる膨大な量です。
(参考:環境省 廃棄物処理技術情報)
この膨大なごみを収集・運搬・焼却・埋立するには巨額の費用がかかり、最終的には税金や事業者負担として私たちの生活に跳ね返ってきます。つまり、「ごみの量=社会全体の負担」といえます。
一方で、正しい分別を行えば資源として再利用でき、処理コストや環境負荷の軽減につながります。たとえばペットボトルは再びボトルや繊維製品に、アルミ缶はほぼ無限にリサイクル可能です。

私たちがごみを出すとき、その先には多くの法律が関わっています。
中心となるのは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」。
(参考:e-Gov 法令検索)
この法律は「排出者責任」を基本とし、出した人が最後まで責任を持つことを定めています。
そのほかにも以下のような法律が、資源循環の仕組みを支えています。
容器包装リサイクル法(1997年)
→ ペットボトルやプラスチック容器のリサイクル促進
(参考:日本容器包装リサイクル協会)
家電リサイクル法(2001年)
→ テレビ・冷蔵庫・洗濯機などを分解し部品を再利用
(参考:環境省 家電リサイクル関連)
食品リサイクル法(2001年)
→ 食品廃棄物を飼料や肥料として循環
(参考:農林水産省 食品リサイクル関連)
プラスチック資源循環促進法(2022年)
→ プラスチック製スプーンやストロー削減、設計段階からの工夫を推進
(参考:環境省 プラスチック資源循環)
これらの法律は時代の変化に合わせて整備されてきたものであり、日本社会に「ごみ=資源」という考え方が徐々に根付いてきたことを示しています。
現場で最も大変なのは飲食店や食品関連施設です。残飯や生ごみ、プラスチック包装、段ボール、瓶・缶・ペットボトル、さらに割りばしや紙ナプキンまで、短時間にさまざまな種類のごみが発生します。
忙しい時間帯には「とりあえずまとめて捨ててしまう」ケースもありますが、正しく分別されていないごみは処理場で受け入れられないため、収集自体されないことがあります。その場合、事業者は再度仕分け作業を行う必要があり、余分な人件費や管理コストが発生してしまいます。結果として、現場に二重の負担を生じさせることにつながるのです。
たとえば名古屋市では家庭ごみのルールが細かく定められていますが(参考:名古屋市 家庭ごみ・資源・リサイクル)、事業系ごみは「事業者責任」での処理が原則です。
東京23区でも同様に、ルールを守らないと収集してもらえないことがあります。

海外に目を向けると、分別やリサイクルに対する姿勢の違いが見えてきます。
ドイツ:厳格な分別ルールや罰則に加え、市民教育やデポジット制度といった仕組みが整備されています。これにより「分別文化」が日常生活に浸透し、資源循環が社会全体で支えられています。
アメリカの一部都市:シングルストリーム方式を採用し、資源ごみを一括回収して工場で仕分けるなど、利便性を優先した仕組みが導入されています。
韓国:生ごみをICカードや専用ボックスで計量し有料化するとともに、資源ごみも種類ごとに厳格に分別・回収しています。こうした仕組みにより排出量の抑制と分別意識の向上が進んでいます。
台湾:ごみ収集車が音楽を鳴らして巡回し、住民が決められた時間に直接手渡す方式を採用。独自のルールが市民生活に根付いています。
このように各国が「市民参加の仕組み」や「排出段階での工夫」を強化してきたのに対し、日本は世界有数の焼却炉技術を背景に「燃やせば処理できる」という発想が広がり、結果として分別意識の定着が遅れてきた面があります。
ただし焼却の過程では必ずCO₂が発生するため、地球温暖化対策や脱炭素社会を目指す上でも、最初の分別が重要だと改めて感じます。
(参考:WWFジャパン)
「分別って面倒」という声を補うように、ITの導入が広がりつつあります。
AI画像認識:ごみをカメラで判別し、自動で分別。
スマホアプリ:写真を撮ると「燃える・燃えない・資源」を判定。
収集車の動態管理システム:ルートを最適化し、燃料コストやCO₂排出を削減。
排出量データ管理:事業所ごとのごみ排出量を可視化し、改善に活用。
さまざまな企業や飲食店でこうしたデータ活用が試みられていたり、AI分別の実証実験が行われたりと、現実的な取り組みが広がっています。
(参考:環境ビジネスオンライン)
分別は面倒に感じるかもしれませんが、実は社会にとって大きな投資でもあります。
逆に怠れば、資源も信頼も失ってしまうかもしれません。特に飲食店関係者の方には、「分別はビジネスの信頼を守る行為」だと感じていただければ幸いです。
「なぜ分別が必要か?」
ごみ処理の社会的コスト
法律による枠組み
現場のリアルな課題
世界からの学び
ITによる新しい仕組み
こうした要素が重なり合い、分別の意義を形づくっています。
つまり分別とは、未来に責任を持つ最初の一歩。私たち一人ひとりの選択が、社会の明日を変えていくのです。
次回は「ごみの定義」に注目し、「そもそも“ごみ”とは何か?」を考えてみたいと思います。